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「百合子、ダスヴィダーニヤ」監督 浜野佐知さんより

映画『百合子、ダスヴィダーニヤ』は、大正から昭和という時代に「男が女を愛するように、女を愛する」と公言して生きたロシア文学者・湯浅芳子(1896~1990)と、天才少女作家としてデビューし、戦後はプロレタリア文学の旗手として活躍した中條(宮本)百合子(1899~1951)の真実の愛の物語です。

私は15年ほど前、原作となったノンフィクション「百合子、ダスヴィダーニヤ」(沢部ひとみ著・学陽書房)に出会い、そこに描かれていた芳子と百合子の鮮烈な生き方に魂を揺さぶられるような想いで、この女性同士の「新しい愛の実験」を映画にしようと決意しました。

100年前の日本で、作家として女がたどり着けなかった高みにまで昇りつめようとした百合子。“レズビアン”という言葉もない時代に、「男×女」という社会が押し付ける愛の在り方を拒否し、自らのセクシュアリティに正直に生きた芳子。

7年間を愛し合い、高め合って暮らした後に、芳子を裏切り、宮本顕治(1908~2007)の元に去った百合子を、「私は何人にも言わぬ。胸ひとつにおさめて黙る。しかしこのことは百年ののちに明らかにされていいことだ」と書き遺した芳子の愛の真実を今こそ甦えらせたい、と願ったのです。

「寂しくはない、孤独だけれど、寂しくはない。同じ魂の人間もいるし。」

孤独と引き換えに魂の自由を選び取って生きた芳子の潔さを、青森インターナショナルLGBTフィルムフェスティバルで皆さまに観ていただけることを心からうれしく思っています。

画像:松永大司さん